ご飯の準備は、特に子育て世代の家庭には優先度の高い家事です。

コロナ禍による子どもたちの休校、そして在宅テレワークを余儀なくされている筆者にとって、身近に感じられる話です。

かたわらに居る子どもたちが空腹を訴えれば、一旦仕事の手を止めてご飯やおやつの用意をしなければなりません。

スポンサードリンク

一つのPot(鍋)をシェアする。SHARE POT-ichikawa-が千葉県知事賞を受賞

シェアポット市川(正式名称:SHARE POT-ichikawa-)は「もうひとつの家族にご飯を作る」をコンセプトに2019年設立。

他の家事代行と比べユニークな点は、食事を作るサービスに特化し、一つの『Pot(鍋)』をシェアする、という考え方に基づいています。

家事代行では料理を作り置いてくることが一般的です。
その一方、同社サービスの特徴は、出張先で作った料理をお客さんと分け合うことも可能な点にあります。
これにより調理スタッフも仕事を終えた後、再び自宅の食事を作る家事から解放されます。
※注:シェアはサービスメニューの一つで、全コース全て分け合うものではありません。

2020年1月30日、『CHIBAビジネスコンペ2019』で千葉県知事賞優秀賞を獲得したSHARE POT市川。
代表を務める菊地史穂子(きくちしほこ)さんよりお話しをうかがいました。

菊地さんご自身、幼稚園に通う娘さんを持つ現役のワーキングマザーです。
日々忙しさに追われながらも楽しむ気持ちを忘れない姿勢や工夫から学ぶものがありました。

エウレカ!ふっと気持ちがリラックスしたときに降りてきたものは…

2015年、菊地さんは第一子を出産。
切迫早産による4ヶ月の安静と産後体調不良が1ヶ月検診まで続きます。
原因不明の食欲不振や不眠に悩まされる苦しい日々を過ごしました。

このまま死んでしまったらどうしよう?
夫に仕事しながらの子育てや家事が出来るだろうか?

不安にさいなまれる日々が続きました。

幸いにして実家が近く、家族からの献身的な支えもあり、徐々に快方に向かいます。
療養中に書き留めていた薬膳ノートやレシピを元に実母が料理を再現してくれました。
菊地さんはそれを口にすることで少しずつ食欲が回復していきます。

「もしまた元の身体に戻れるなら、自分と同じように子どもを抱えて困っている世の中のお母さんを助けるために自分の命を使いたい。今ある命は拾わせてもらったものと思っています」。(菊地さん)
※以下、「  」内は、菊地史穂子さんの談。

産後体調不良から回復後、菊地さんは薬膳マイスターを取得し、2017年に自宅で料理教室を開きます。
忙しい毎日が戻ってきたある時、久しぶりにゆっくりとお風呂に浸かり、リラックスした一人だけの時間を過ごしていると一つのアイデアが降りてきました。

お客様とスタッフで完成した料理を分け合う新しいスタイルの調理代行サービスを目指そう!

「エウレカ!」
古代ギリシャの学者アルキメデスが入浴の際、世紀の大発見をした時にこう叫んだと言い伝えられています。

これは常日頃、頭を回転させながら何かのテーマに向かって自分の思考と格闘している人が、ふと目線を変えたり、それとは一見無関係に思える物事に触れたときにもたらされる一種のご褒美であると思います。

母の一言がもたらしたビジネスアイデア。

母からの何気ない一言。“大変なときは頼りなさいね。2人分作るのも5人分も一緒なんだから。”
これがSHARE POTの仕組みを思いつく大きなきっかけとなります。

「なるほど!と思いました。煮物などたくさん作った方が美味しい料理もある。利用者さんだけじゃなく、SHARE POTで働いてくれているママたちにも何かメリットがほしい。お母さんはスキル満載で家族に料理を作っていますからね。主婦の力を仕事で活かせる場があれば、とこれが発想の原点になりました」。

自身も調理スタッフとして利用者のキッチンに立つ菊地さんは、この仕事を通じて、”もうひとつの家族”にご飯を作っていることをまさに実感したといいます。

「利用者のご家族と同じものを食べているわけです。食べながら、○○さんも今これを食べているかな?とか、今度、好みの味付けを聞いてみよう、など思いを巡らせることがたびたびあります」。

若き日の挫折。そしてCHIBAビジコン2019までの道のり。

「仕事は自分の能力を使って価値を作り出すことです」
働くことは楽しみ、働けることは幸せと朗らかな笑顔で語る菊地さん。

そんな菊地さんも全てが順風満帆だったわけではなく、10〜20代に味わった挫折が、大きな糧となっているようです。

「小さい頃は、あまり身体が丈夫じゃなかったです。祖父、父が税理士として働く姿をみて、同じ士業として弁護士を目指しましたが、受験勉強中に再び身体を壊し、結果的に司法試験には通らなくて…」

自分て何も出来ない…。挫折感の中にありながら過ごす日々でした。
そして切迫早産と産後体調不良など紆余曲折を経て、2019年にSHARE POT市川の起業を果たします。
その翌年1月に行われた『CHIBAビジコン2019』では、ついに千葉県知事賞優秀賞に選出されるまでに至りました。

関連リンク:千葉県知事賞が決定![CHIBAビジコン2019]


CHIBAビジコン2019でSHARE POT市川のサービスをプレゼンテーションする菊地さん

「最初は私がコンテストなんて…と消極的でしたが、周囲に推されて千葉ビジコンに挑戦することになりました。Codo(※本八幡のコワーキングスペース)で資料作りに励んだり、夫の前でプレゼンの練習を繰り返したりと、準備を重ねて臨んだ結果が、優秀賞の獲得。これは本当に嬉しかった。一つ山場を乗り越えたという気持ちです」

この授賞式に菊地さんは3歳の娘さんを連れて行きました。

「娘に自分が一生懸命取り組む姿を見せておきたかった。あの時、お母さん頑張って仕事してた、という記憶が彼女自身の将来に何かしら役立つかもしれないと思いました」

働くお母さんの責任感。

実際にSHARE POTのサービスを利用している主婦の方からお話を聞かせてもらう機会がありました。
利用前は、『共働きでも家事は全部自分がやらなければいけない』と抵抗感、罪悪感があったようです。
しかし実際に利用してみると夕飯の支度をしてもらえるだけで、気持ちだけでなく身体の負担も減り、笑顔が増えたといいます。

ここからもうかがえるように、特に子を持つ日本の女性にとって食事は母である自分が作らなくてはいけないという精神的な呪縛があるように思えます。

『食事を作ることを人任せにしてはいけない』という働くお母さんの頑なな気持ちが、調理代行サービスを利用する上での気持ちのブレーキになっているかもしれない。そう考えた菊地さんは『ギフトサービス』を思い付きました。

「コストパフォーマンスの観点から家事代行を見た場合、会社で数字を使って日々仕事をしているお父さんたちにはこのサービスの利点をご理解いただけるのでは?と考えました」

ギフトサービスは、母の日や誕生日などにパパからママへ調理代行をプレゼントするメニューです。
これをお試しで使ってもらい、ママたちの食事作りに対する固定観念にポジティブな変化をもたらすことが出来れば嬉しいと語る菊地さん。

「家事が生きがいで率先してやりたいという人にとっては、それは自分のための幸せな時間。でもその一方で他にやりたいことを我慢し、やらなければいけない義務の時間だと感じてるお母さんがいるとしたら…」

2020年の目標と計画:①ギフトサービスでサービスを体験してもらうこと。②試食会・プレパパ向け料理教室の開催。

SHARE POTのメリットを理解してもらうためには、実際に体験してもらうのが一番です。ギフトサービスのようなお試しの機会も含めて、今年は同社スタッフが作った料理の試食会、プレパパ向けの料理教室も計画しているようです。

「前に進める今が楽しい。働かせてもらえることへの感謝の気持ちでいっぱいです。お客様は神様、ではなく同じご飯を食べるもう一つの家族のようなもの。たくさんのママたちに、ご飯の準備はしておくから安心して頑張って!と優しく背中を押すような仕事をしていきたい」

まだ若く、起業したてのSHARE POT市川。
少子高齢化や労働人口の減少など、我が国における負の要素をカバーし得る可能性を大いに秘めています。
代表菊地史穂子さんの思いが少しずつ形になり、活躍の場が広がっていくことを期待してやみません。

https://www.sharepot-ichikawa.com
(SHARE POT-ichikawa-公式HP)

ライター:u1ro