市川産のケールなどを使った瑞々しいサラダ。糀(こうじ)に漬けて煮込んだ鳥ムネ肉が口の中でホロリと崩れるほどの柔らかさ。7種類の雑穀米に薬膳カレーをかけて食べると身体の中からポカポカと温まってきます。
これは身体に良い!体内からそんな声が聞こえてきそうです。

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「こころ」と「からだ」を笑顔にする。美味しさと健康を同時に追求したカフェダイニング

こちらは市川市本八幡にある「発酵×スパイス食堂YajikkoKITCHEN」(以下、ヤジッコキッチン)の『発酵スペシャルランチプレート』。このお店の看板メニューの一つです。

「大半は地元市川のお客様ですが、たまに『テレビを観ました』と遠方から訪れてくださるお客様もいらっしゃいます」。
こう語るのは、ヤジッコキッチンのオーナー矢路川結子(やじかわゆうこ)さん。
人懐こい笑顔で応じてくれました。
※以下、「  」内は全て矢路川さんの談。

和食に無くてはならない醤油や味噌などの調味料は、麹(糀・こうじ)から出来ています。
蒸した米や麦、大豆などの穀物に麹菌が付着し発酵したものを『麹(糀・こうじ)』と呼び、日本の代表的な発酵食品です。

ここヤジッコキッチンは、自家製の発酵調味料を使った料理を中心に提供するカフェダイニングです。
2016年5月に開業し、以来、”「こころ」と「からだ」を笑顔にする”をモットーに舌にも身体にも優しい料理を提供し続けてきました。

自分は何をしたいのか?追い求めた末にたどり着いた『食』の仕事

「元々、起業しようという思いで始めたわけではなかったんです」。

短大を卒業後、幾つかの金融機関でシステム事務構築の役割を担ってきた矢路川さんは、物事をゼロから具体的な形にすることが以前から得意だったと言います。
数年間勤めているうちに、一つの疑問が生まれます。この先、経営層に進めるわけではなく、キャリアアップを図れるわけでもない。それでも10年、20年後、今の仕事を続けていたいか?と自問する日々が続きました。

自分自身を追求していく中で、何か資格を取得してみよう、と行政書士の勉強をしたり、ファイナンシャルプランナーの試験に合格します。それでも何か違う…。

そしてある時、「食」を中心に何かしてみたいという思いに至ります。会社勤めの傍ら、調理の専門学校である「レコールバンタン」に通い、フードコーディネーターの資格を取得します。

「食べることは古今東西、老若男女、誰でもすること。そこに自分の培ってきたものや長所を活かして仕事にしていきたい。そう思いました」。

始めた当初、スパイスやハーブに興味があった矢路川さんは、得意としていたトルコ料理に和の食材を使う試みをしました。
様々な試行錯誤を繰り返すうちに、日本古来の食を追求したいという気持ちが湧いてきました。そこで「発酵」を学ぶため、石川県まで通い、発酵食大学院を卒業します。

「発酵食を勉強することで、料理を美味しく味付けし、食べた人が健康になることを学びました。そういった良い物を地元である市川市の皆さんの食事に入れたい、伝えたい、そんなことを考えながら市川市のTMO講座(タウン・マネジメント・オフィサーを養成する講座)を卒業し、料理教室と飲食店を開業しました」。

お話しをうかがう間も包丁で野菜を切ったり、お鍋の火加減を調節したりと矢路川さんの手が止まることはありません。

新商品の発酵薬膳調味料は、同じ市川の『味禅』と共同開発。クラウドファンディングで資金を募ります

開業してから4年が経ち、お客さんから『自宅で手軽に発酵料理を作りたい。忙しい時でも身体に良い食事を取りたい』という声が多数あがるようになりました。そこで矢路川さんは、自宅でもヤジッコキッチンの発酵食を味わえる調味料の開発をしたいと考え始めます。

ただ、調味料を流通させる知識も設備もない。
調味料のOEM(※1)製造元を探していた矢路川さんは、同じ地元市川で千葉県産の食材にこだわる『味禅』のタレと出合います。
(※1:Original Equipment Manufacturingの略。取引先の会社の商標で販売される製品の受注生産を意味する。)

味禅のタレを製造、販売する「株式会社うまだれカンパニー」の創業者であり代表を務める大久保貴之さんに発酵薬膳調味料の開発アイデアを持ちかけます。
市川で生まれ育った大久保さんは、同じく地元で起業した矢路川さんの発酵食への情熱に賛同し、自社の設備を使って新しい調味料を共同開発を進めていくことになりました。

「主に材料は、自家製醤油糀、味噌、甘酒、生姜、ネギ、穀物酢、スリゴマなどが材料となってます。生産者の方々の顔の見えるもの、極力千葉県産にこだわりました」。

ここで一足先に新商品を味見させていただきました。
生姜が風味をリードしながらもまろやかで優しく、ゴマを噛むと香りが立って食欲増進につながる調味料です。この料理に合う、という一点集中より用途が多岐に渡りそうな印象です。

こうしてヤジッコキッチン・うまだれカンパニーの共同開発による発酵薬膳調味料の中身が出来上がりました。
あとはこの商品を流通させるためのフェーズに入っていくことになりますが、そのために必要な資金をクラウドファンディングで募ります。

「この調味料をただ販売するだけではなく、万能に使えるレシピを添付しようと思っています。忙しいお母さんでも短時間で手軽に美味しく、そして健康なお料理が出来るような」。

”I”ではなく”You”が大事。いつまでも『食』を結ぶ人でありたい

事業の母体であるヤジッコキッチンの店舗運営以外にも料理教室や物品販売、時には発酵食やスパイスを使ったレシピ本の執筆、各メディアから取材を受けるなど、とにかく毎日が忙しい矢路川さん。
お仕事やプライベート、今後の展望などについてうかがいました。

「趣味は…、実は私の趣味はこれです!と言い切れるものがなくて(苦笑)。正直、仕事とプライベートの垣根があまりないと思います。仕事の中で新たに身につけたいことが出てくれば、それに必要な勉強は楽しく計画的に取り組めていますし、リラックスタイムや身体のメンテナンスも、全てはいい仕事につなげていきたいからこそ」。

こう聞くとバリバリ仕事をこなすパワフルでキレキレのキャリアウーマンを連想するでしょうが、彼女を知る人なら、常に笑顔を絶やさず、安心感を与えてくれる心地よいユルさを思い浮かべるはずです。

「何故それを作るのか?買ってくれた人にどういう良いことが起きるのか?その人がどう良くなってほしいのか?独りよがりに私が良い、と信じ込んでいても、世間が求めていないものを作っては何の意味もない」。

矢路川さんは仕事のアイデアを考える時に、カレンダーの裏などに大きな字で書き込んでマップを作っています。

大きい紙に手書きでキーワードをどんどん書いていき、矢印などで相関図を記していくと何がどこにつながっているのか見えるようになると言います。

「これはパソコンでは出来ないんです。毎回手書きでやっています」。

「セミナーなどは昔も今もあまり参加しません。どちらかというと先に身体が動くタイプなので、気づくと目指す方向に必要な情報収集や技術の修得などに励んでいます。サービスはそれを受け取る相手が居ないと成り立たないですよね。だから”自分が楽しい”は第一優先にしていません。”I”じゃなくて”You”が大事」。

矢路川さんのお名前、”結子”の結ぶという字。ここにはご両親の思いが込められています。人と人を結んで笑顔にするような子に育ってほしい、たくさんの人に愛されてほしい、と命名しました。

「”食”を結ぶ人でありたい、そんな思いから現在のヤジッコキッチンのメンバー6人で”結meal(ゆうミール)”という団体を立ち上げました。料理という枠に囚われず、”食べる”という観点から様々なものを結んでいきたいと思ってます。いずれ結mealはブランド化し、法人にしようと計画中です」。

ヤジッコの目標、将来、そして大事にしている言葉

2年後、40歳を迎える矢路川さんには、その節目までに『店舗』『物販』『料理教室』の核となる3事業が、そこで働く人たちも含めて成長を遂げ、バランス良く稼働し続けていたいという目標があります。

「料理家、店舗オーナー、料理教室の先生。それぞれの私の顔があればいい。ただそこには必ず”食”が存在していてほしい」。

最後に矢路川結子さんが大事している言葉を伺いました。

「真摯(しんし)に生きることです。これは両親から教わってきたことでもあります。私がしていることで誰かを傷つけていやしないか?嫌な思いをさせてないか?自分が良かれと思っていても悲しんだり苦しんだりしてる人がいてはいけない。幼いときから常にそう考えながら生きてきました」。

ヤジッコキッチンには、単に飲食を楽しむだけではなく、矢路川さん始め、お店のスタッフとのコミュニケーションを楽しみに来店するお客さんも多いように感じます。

食を通じた様々な喜びが詰まっている空間。「発酵×スパイス食堂YajikkoKITCHEN」
JR本八幡駅から線路沿いを千葉方面に向かって300mほど歩くと右手にお店が見えてきます。
暖かな春風に吹かれながら、ふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか?

発酵×スパイス食堂YajikkoKITCHEN 店舗情報

ライター:u1ro