JR本八幡駅の北口を降り、バス通りを真っ直ぐ歩くこと10分ほど。
青い窓枠の中にある暖かな雰囲気の空間が見えてきます。
ドアを開けた瞬間、ふわりと香るハーブの心地よさ。店内に流れる優しい音楽と共にハーブティをゆっくり口に含むと、心身が弛緩していくのを実感します。

「ハーブの中でも現在確認されているミントの種類は、約600種あると言われてます。今うちの農園で育てているのは、ハーブが20種類で、そのうちミントが3種類(スペアミント、パイナップルミント、ラベンダーミント)。ゆくゆくは、ハーブ全体の20種類を70種類ぐらいまで増やしていきたいですね」(MINT BLUE店長、関口正風さん。以降「  」内は関口さんの談です。)

ハーブティーの源となるハーブは自らの手で育てたい。そんな思いで、以前から畑を探していたという関口さん。
このほど市川市に隣接する鎌ヶ谷市にちょうど良い環境を見つけ、現在、畑を開拓中です。
既にこの畑で収穫したハーブを使ってお店で提供していますが、最終的な農園の完成予定は2024年を目指しているということです。
MINT BLUEが、ここに至るまでの様々なお話をオーナーの関口正風さんよりうかがいました。

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アパレル業界からの転身。ハーブティの道を選んだ理由とは?

「最初からあまり大風呂敷を広げず、やれる範囲のことを一つずつ丁寧に積み上げてきました。一人でやってますからね。こうしたい、ああしたいと構想はたくさんありますが、まずは足元を見て、欲張りすぎずに出来ることをコツコツと。その結果、今があるという感じですかね」

大学卒業後、関口さんが勤めたのはアパレル業界でした。20年間、アパレル企業に勤務しながら、常に独立志向は持っていたようです。

「当初は、同業(アパレル)で独立しようと考えていたんです。ただ、2011年3月に起きた東日本大震災、これが現在の飲食業での独立を目指す大きなきっかけとなりました。東北での被災状況を見ていて、僕の中で、ビジネスとしての洋服の価値観が一気に変わってしまったんですよ」

生活の基本的な要件となる”衣食住”。
この中で衣服と食物、住居が同列に扱われていますが、関口さんにとって”おしゃれ”という枠組みでの衣服は、生き延びることにおいて二の次にならざるを得ない、と東日本大震災を通じて痛感したと言います。

「人が生きていくために大切なことを優先順位で考えました。まずは食べること、飲むこと。これが生命活動を維持していくために基本的なことです。そこに、ただ栄養を摂取するだけではない”癒し”の要素が加われば尚良いのではないか?と思うに至りました」

アパレル時代、ブリティッシュスタイルのファッションに携わることが多かった関口さんは、イギリス文化に精通しています。イングリッシュガーデンは、ハーブを植栽に取り入れるのが一般的です。ハーブを使って何か出来ないだろうか?そこから関口さんは、ハーブティーカフェの着想を得ます。
約5年間、ハーブとアロマの勉強を積み重ね、徐々にカフェ開業の構想を固めていくことになります。

理詰めで考えること。MINT BLUE、店名の由来

そして2017年5月、市川市東菅野にカフェ『MINT BLUE』をオープンしました。
店名の由来について、関口さんにうかがいました。

「ハーブティを提供するお店ですので、何かしらハーブの名前は入れたい。ただ、ハーブってあまり日本では馴染みが薄いじゃないですか?やはりミントが一番よく知られているハーブかな、と思ったんです。それと、店舗入り口の色遣い『白と青』はお店のコンセプトにしています。ここからブルーを選びました。もう一つ付け加えれば、”MINT”と”BLUE”は、共にアルファベット4文字。パッと見た時、文字配列のバランスが良いというのも理由の一つです」

余談ですが、筆者個人的には、映画『グランブルー(Le Grand Bleu)』のような余韻を残す音の響きに魅せられます。

子供の頃の関口さんは、外で身体を動かすことと同時に将棋が好きな少年でした。

「ちょうど僕が10歳の頃、棋士の谷川浩司さんが最年少名人になられたんです。そして谷川さんの次は、羽生善治さんが名人に。この辺りを境に将棋に興味を持ち始めました、町の将棋大会に出たり、棋譜を見て学んだり。今でも休日にNHKの対局解説など何時間も観てる時がありますよ」

なるほど、思いつきよりは理詰めで組み立てていく関口さんの思考は、将棋にそのルーツがあったのか?と膝を打ちました。

「西洋のチェスと日本の将棋の大きな違いは、駒の扱いにあります。チェスは駒を落とし、減っていくだけ。その一方で、将棋は獲得した駒を味方として再活用することが出来ます。この発想が僕は好きですね」

開業から6年目に突入。お店でハーブティを提供することへのこだわり

MINT BLUE開業から今年は6年目となります。お店を始めた当初は、今では想像もつかないほどお客さんが少なかったのですが、それが逆に良かったと関口さんは振り返ります。

「結果的に駅から程よく距離のあるこの場所を選んだのですけど。最初は本当にお客さんが来なくて・・・(苦笑)でも今考えれば、それが良かったんだな、って。まだ駆け出しの身、色んな準備が整わない状態で、一気に大勢のお客さんが来てしまったら一つ一つの仕事が雑になり、満足度の低いままお客さんを帰してしまったと思うんですよ。だから、時が経って経験値が上がっていくに連れてお客さんも増えていく、という流れが今思えば恵まれていたんでしょうね」

コロナ禍になり、多くの飲食店がテイクアウトを始めた頃、悩みながらも関口さんはテイクアウトの導入には、慎重な姿勢を崩しませんでした。

「色んな人から『テイクアウトやればいいのに』という声はいただきました。でもこの空間(MINT BLUEの店内)で、店舗の空気感や流れてくる音楽などを立体的に感じてもらいながら飲むハーブティの味や香りは、テイクアウトでは実現しません。テイクアウトをした末に、結局MINT BLUEの評価が下がるんじゃないか?と。コロナ禍で来客数が激減する中、売上は欲しい。でもここを譲ってはいけないと思いましたね」

どうしたら成功するかは、今もって法則を定めるのは難しい、としながらも、なぜお店が潰れてしまうのかの理由は徐々に分かり始めてきたという関口さん。
テレビ東京のカンブリア宮殿など、経営者の出演するテレビ番組から、規模や職種は違っても得られるヒントがたくさんある、と言います。

「個人店でも会社組織と同じようなやり方を取り入れるべきだと思います。例えばうちの店で言えば、ホールスタッフ(作る人、配膳する人)、営業、販促、経理、店長、オーナー、とこのように6分割して考えるのです。一人で切り盛りしていても、そこを何役か自分の中で使い分けるのが大事だと思います」

登山、散歩で見つけた植物を通して見える世界。そしてハーブ農園への思い

関口さんは、学生時代から山登りが好きでした。
登山は、身体はきつくとも高山植物を見ながらいつの間にか頂上に達したとき、日常生活で得られない充実感に満たされます。

「昔から植物を育てるのは好きだったんです。今はなかなかゆっくり登山をする時間が無いですが、毎日犬の散歩をしていると常に植物が目に入ります。この近所で、庭にレモンの木が植えてあるお宅がありまして。毎年春先から初夏にかけて、一斉にレモンが実をつけるのですが、必ず一個だけ取らずに残してあるんです。これはおそらく家主さんが、毎年毎年、瑞々しい実をつけてくれる感謝の印として、一つだけその実を残すことで、レモンの木に敬意を払っているんだろうな?とか、そんなこと考えながら散歩していると楽しいですよ」

コロナ禍で、時間が出来たことをチャンスと捉え、関口さんはかねてから温めていたハーブ農園の構想を具体化していきます。

「ガーデニングの完成まで、まだもうちょっとかかりますが、お店で提供するハーブティーのハーブは、この農園で収穫出来るようになりましたし、2024年までには、例えばこの農園を使って親子での収穫イベントをしたり、人が集まって楽しめる場にしていきたいと思ってます」

常に仮説を立て、理詰めで仕事を進めていく関口さんの姿勢からは、カフェのオーナーというよりは、ビジネスパーソンの雰囲気が漂います。

「市川は東京に隣接した立地にあり、色んなメリットがある場所だと思います。市川から発信できる何かがもっと増えるといいですよね。僕もその一つとして何か関われたらいいなと常々考えています」

酷暑の夏からは解放され、徐々に秋の深まりを感じる今日この頃。
“そのひ、そのときのあなたのためのばしょ”
ハーブの香りで上品に包まれた穏やかな空間に身を置き、ひたすらゆっくりと、自分に癒しを与えるのも、有意義な時間の過ごし方と言えるでしょう。

MINT BLUE 店舗情報

  • 公式Webサイト:http://mintblue2017.biz
  • 住所:千葉県市川市東菅野1-2-13-102
  • 営業時間:11:30~19:00
  • 定休日:水曜
  • アクセス:都営新宿線本八幡駅より徒歩6分、JR総武線本八幡駅北口より徒歩10分、京成八幡駅より333m

ライター:u1ro